Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 113 UDK: 81 COPYRIGHT ©: NAKAJIMA AKIKO Naming Classifications: The Case of the Sino-Japanese Suffix -kee 漢語系接尾辞「系」によるカテゴリー化と名付け NAKAJIMA Akiko (中島晶子)* Abstract The sino-japanese suffix -kee translated as “kind of” is used to create a category enabler productive of neologisms. In these types of naming classifications, the stem followed by - kee refers metaphorically and/or metonymically to salient properties that re-classify it. The suffix is able to delineate prototypical or even peripheral elements of the category in question according to the ICM (Idealized cognitive model) and/or to amplify their discursive aspects. Thus it allows the construction of a new category by lending to the stem qualities of ambiguity and specificity. Keywords: sino-japanese suffix -kee, naming, categorization, metaphor, metonymy 要旨 カテゴリー名を表す漢語系接尾辞「系」は、その造語力からおもに電子メディア において多くの新語を生産している。「系」が後接する語基は、理想認知モデル (Idealized cognitive model)を基盤とした、メタファー的解釈やメトニミー的解釈、 あるいはその双方の 2 段階的解釈によって、カテゴリー属性を指示する。新語の 用法では、「系」は新しいカテゴリーを名付けるのに使われるほか、カテゴリー 成員の外延の拡張によるあいまい化、あるいは、外延のうちの中心的成員に特化 * Nakajima Akiko, Paris Diderot (Paris 7th) University, 16, rue Marguerite Duras, 75205 Paris Cedex 13, France. E-mail: akiko.nakajima@univ-paris-diderot.fr NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 114 した属性の指示という意味機能がある。このように「系」は、基本的用法から対極 的な二方向へと用法が拡張し、意味のネットワークを形成している。 キーワード: 漢語系接尾辞「系」、名付け機能、カテゴリー化、メタファー、メ トニミー 1 はじめに インターネットなどの電子メディアの普及にともない、そうした場のコミュニケーショ ンにふさわしい新語が多く造られている。本稿では、その中でもきわめて造語力 の高い漢語系接尾辞「系」を取り上げ分析する。「系」は名詞などに後接してカテ ゴリー名を表すという機能をもつ。したがって、「系」の分析はカテゴリー化と名付 けという視点から行うことになる。 以下、つづく第 2 節では、まず、とりわけ電子メディアにおいて日々新しいカ テゴリー名が生産され、また好んで使われる背景を、カテゴリー化の動機という点 から検討する。そこで、カテゴリー名を表す接尾辞をいくつか紹介することから始 め(2.1)、次に「系」の用法を通して、カテゴリー化の動機を以下の3点から考える。 すなわち、仲間うちの共通知識を前提とする造語であるという認識面に関わる点 (2.2)、語彙化を可能にする接尾辞の使用によって表現が形態的に簡略化できる という点(2.3)、そして、カテゴリー名の使用により属性の特異性が緩和されるとい う解釈に関わる点である。これらを見た上で、第 3 節では、「系」をともなうカテゴリ ー名のネーミングの諸相について考察する。まず、「系」の基本的用法を取り上 げた後(3.1)、つづく節で新語の用法を考察する。第一に新しいカテゴリー名を表 す用法(3.2)、第二に再カテゴリー化によるあいまい化の用法(3.3)、そして第三に 再カテゴリー化が属性の意味を特化する用法(3.4)を見ていく。 例には、新語のなかでも普及度も定着度も高いと思われるものを、ブログ、書 名、会話などから取り上げた。なお、ここで言う新語には最近のもののほか、70 年 代に遡るものも含まれる。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 115 2 カテゴリー化の動機 本節ではまずテゴリー名を表す接尾辞をいくつか一瞥した後、どのような動機に よってカテゴリー名が生産されているのかを検討する。 2.1 カテゴリー名を表す接尾辞 カテゴリー名を表す接尾辞には「系」以外にも「族」「式」「型」などがある。レキシコ ンの登録されている語の成分としての基本用法のほか、新語の造語成分としても よく使われているのは共通である。これのうち「型」以外はすべて漢語であり、よく 指摘されるように、ここでも造語成分としての漢語系接尾辞の生産性が見受けら れる。以下の例のうち、(a)は基本的用法に属する例、(b)は新語の例である。昔 の新語で、今は国語辞典の見出しに載っているようなものは基本的用法と見なし た。 (1) a. {文化系/理科系/社会学系}の学生 b. 癒し系(の)グッズ、かわいい系 (2) a. ホーピ族の言語、ながら族 b. 自転車通勤族、妄想族1 (3) a. イギリス式庭園、竪穴式住居、マークシート式の試験、ねずみ算式 b. ダライ・ラマ式子育て法、KY 式日本語2 (4) a. A 型気質、うるさ型の上司 b. モバイル型パソコン、参加型学習、新入社員はカーリング型3 以上の接尾辞は基本用法では名詞に後接する。新語でも一般に同様だ が、意味が比較的透明なものや定着度の高いものなどの場合、名詞のほか、 1 「妄想族」は思考がつい空想的になりがちな人を指す。 2 「ダライ・ラマ式~」は S. Riess と A. Köhle の書籍名(日本語翻訳、2002 年)、「KY 式~」は北 原保雄(編著)の書籍名。後者は、「空気読めない」を、語の頭文字をとって「KY」とするような新語 の造語が流行ったことから、このような形態の新語を同書では「KY 式」と名付けている。 3 「モバイル型」も「参加型」も一部ではすでに定着している。「カーリング型」は、年ごとに新入社 員の全体像を命名している(財)日本生産性本部が 2008 年度に造った名前。「自立意識が乏しく、 周囲の配慮や指導が必要な」ことからスポーツのカーリングの石に例えられたと言う。 NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 116 形容詞(かわいい系)、動詞(モテる系)、擬音語・擬態語(ドキドキ 系)などが語基になることもある。また、複合形、簡略形などが派生する 場合も見られる(例:モテる系→モテ系→非モテ系)。これらの派生語の 意味面での特徴については、第 3 節で「系」を例として分析していく。 次節からは、こうしたカテゴリー名が多く生産される動機を3つの点から見て いく。3つの点とは、カテゴリー属性の仲間うちでの共通認識、属性表現の形態 的簡略化、属性の脱特異化という解釈である。 2.2 カテゴリー属性の共通認識 カテゴリー属性の共通認識とは、対象をあるカテゴリーの成員として認める基準と なる属性が、仲間うちの話者間で同定可能であるということを指す。カテゴリー化 において、属性の同定は前提となる。そのような認識上の了解があった上で、そ の属性を最も喚起しやすい語が語基に選ばれ名付けが決まることになる。そして、 この前提自体がカテゴリー化の動機となる側面もあると言える。つまり、仲間うち で了解済みとなっているカテゴリー属性あるいはカテゴリー自体に、仲間うちでわ かる名付けをすることで、共通認識を確認でき、またそれを理解することで仲間う ちへの帰属が確認されるのである。このような知識の共有が仲間意識と絡んでカ テゴリー化や名付けの動機となるのは、隠語や若者言葉の造語にも共通するも のである。 たとえば、人から共通の知り合いについて「どんな人か」と聞かれた場合、い ろいろな答え方があるが、「秋葉原にいそうな人」と答えたら、コンピュータに強い のか、近辺の学校に通う学生なのか、あるいはまた別のタイプなのかわからない。 さらに的をしぼるために、「秋葉原にいそうなアニメとかゲームが好きそうな感じの 人」と言えばなんとなくイメージが伝わるかもしれない。この場合、代わりに「アキ バ系」のようにカテゴリー名を使うことにより、「秋葉原にいそうな人」のうちでも一 般にカテゴリー化の対象として認識されやすい人のもつ属性が優先的に解釈さ れる。もちろん、文脈から解釈が助けられることもあるが、カテゴリー属性は他意 がない限り、少なくとも同定可能と話者が認識しているものである。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 117 さて、こうした属性は、語基の表層的な意味だけでなく、語基のメタファー的 解釈やメトニミー的解釈、あるいは双方が絡んだ意味解釈によって指示されるも のであることが多い。その際、当該事物や事象についてのあらゆる知識の集成、 Lakoff(1987)が理想認知モデル(ICM=Idealized cognitive model)と呼んだ知識 構造が基盤となる。たとえば、「アキバ系」というカテゴリー名については、語基の 「アキバ」は東京都内の地名を指すに留まらず、その地区について一般に言語 使用者間で共有されている(と想定しうる)社会文化的知識を意味解釈の基盤と して解釈することが必要となる。「アキバ」という地区にまつわる知識には多くの可 能性があるが、電気製品専門店の多いこの地区に集まる多くの人のなかでも、も っともその属性を同定しやすい対象が ICM のなかから特定される。とりわけ電子 メディアによって広く共有されるに至った社会文化的知識のなかで、そこがいわ ゆるアニメやゲームを趣味とする人が多く集う場所であるという知識が第一に活 性化されるだろう。このような ICM を基盤として、場所を表すこの語がメトニミー的 解釈によって、特にその場所に集う人の属性を表すことになる。この新語が初め て見た人にも比較的解釈が容易であったと思われる所以である。 2.3 属性表現の簡略化 第二にカテゴリー化の動機として挙げるのは、属性表現の簡略化である。これは、 知識構造のなかからカテゴリー属性として同定したものを言語化する形態的レベ ルに関わる。 ある意味を言語化する際には、聞き手にとって解釈が可能となる程度には情 報を取りこまなければならないが、言語の経済性から、関連する知識構造のすべ てを言語化することはできない。そこで、聞き手の知識構造を活性化するような表 現をなるべく短い形で言語化できれば効率的である。前節の例をふたたび取り 上げると、「アニメやゲームが趣味の人」が共通してもつとされる属性の描写しよう するとき、それは実は難しい。それで、そのような趣向のある人と言うに留める方 法もあるのだが、そのような表現がすでに強いコノテーションをもち、それが常に 意味に付随してくるとなると、別の表現が求められることにもなる。それは話者が いわんとする属性の描写に社会的コノテーションを負わせたくない場合などで、 そうすると但し書きが必要になり表現はさらに長くなってしまう。それで、別の表現 NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 118 が求められる。「アキバ系」と言えば、実際は当該地区には「アニメやゲームを趣 味とする人」ばかりではないにもかかわらず、すでに流布しているアキバのイメー ジがアキバに関する知識構造のなかにあり、それが活性化され、解釈が特定され ることになる。 このような簡略的な語が解釈上のあいまいさを最小限に留めておけるのは、 文脈によるところも大きい。談話の場においてすでに話題の枠が設定されていた り、話者間のお互いの趣向がわかっている場合などは、あいまいな表現になりそ うなカテゴリー名が、最小限の言語形態で談話展開の支障にならずに解釈され ることも珍しくはない。 たとえば、「セクシー系」という語などは解釈の幅が広すぎるため、その属性が 付与される対象や話題といった談話要素によって決定されることになる。それが 香水を紹介するサイトであれば、「セクシー系」は「リフレッシュ系」「清楚系」「ビジ ネス系」などと区別される属性としての「セクシー」であるということになる。このよう な理由で「さわやかセクシー系」という複合形も可能となり、逆に「セクシービジネ ス系」は考えにくいという、人の性格としての属性であれば異なるであろう組み合 わせの制約が ICM を基盤として生まれるわけである。 簡略な語で ICM を喚起し解釈につなげる、このような操作はメタファーの操 作にも似ているといえる。メタファーは抽象的なことがらを表現する際に、具体的 なことがらを想起させることによって、より効率的にまた解釈しやすい方法で伝え るための言語的操作である(Lakoff & Johnson:1980 参照)。たとえば恋愛の諸相 を表現する際に、「長い道だった」とか「別々の道を行く」などのように、恋愛を旅 にたとえて言うならば、言わんとすることが具体的なイメージとともに相手に伝えら れるだろう。少ない言語表現で多くのことが喚起できれば効率的である。こうした 効果を図る談話ストラテジーは、1つの短い語基によって、対象に付与されるさま ざまな属性を喚起し解釈を促すカテゴリー名の使用にも通じるところがあると思わ れる。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 119 2.4 属性の脱特異化 カテゴリー化の動機として、最後の3つめに挙げるのは属性の脱特異化という語 用論的解釈のレベルに関わる点である。人や物を対象にその属性を記述する際 に、カテゴリー名を通して属性を表す場合と直接その属性を記述する場合とで語 用論的効果に違いが生じる。 たとえば、共通の知り合いである人物についてどんな人か問われた場合、次 のように答えることができるが、語用論的な解釈としてはどのような違いがありえる だろうか。 (5) a. アキバ系ですね。 b. アニメとかゲームとかが好きなタイプですね。 (5a)では、カテゴリー名を使うことによって、それが表す属性は、当該人物を 形容するものとして指示されるだけでなく、カテゴリーをなすほどの数の人物に付 与されるものとして含意される。この点、対象となる個人だけを取り上げて属性を 示している(5b)の例では、他の人と弁別しうる属性として表されている。この属性 が否定的な意味合いをもつ、あるいは、もちうる場合、(5b)のような言い方では、 対象の人物を話者たちのカテゴリーから疎外する意味合いが現れるだろう。「あ の人はいじわるだ」と「あの人はいじわる系だ」とでは、対象に対する排他の度合 が異なる。前者は自分達と違うことを非難の形で述べ、後者は「そういう人たちも いる」という含意と「~系」のラフな言い回しが表現の緩和にもつながっている。 以上、カテゴリー化そしてカテゴリー名の生産と使用についての動機を3つの 点から検討した。これらはいずれも談話ストラテジーに関わっており、それは、い かに話者間の知識を利用して最小の言語化で充分な意味解釈が、穏当にでき るかというものだと言えるだろう。このようなストラテジーが求められるのは、特に、 ラフな話題をラフに行うような(携帯)メールやブログなどに代表されるような電子 メディアが代表的である。相手は見えず、不特定多数である場合もある。また、談 話における解釈は文字だけが頼りである。話し手の表情やイントネーションで発 話内容を微調整することはできない。一方で、文字を打つのが話すよりも手間が かかるため、表現の簡略化が求められ、話題自体も込み入ったものはラフな形に 変換して伝えられる。こうした以前にはない性質の新しいコミュニケーションの場 NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 120 においては、それにふさわしい言い回しが新たに造られ、造語が模索されるのは、 自然の成り行きである。そして、カテゴリー化やその名付けなどはそうした試みに 連なるものだと見なすことができるだろう。本節では主に「系」の例を通して観察し たが、これは他のカテゴリーを表わす接尾辞にも同じことが言えるのではないかと 思われる。 3 カテゴリー化とプロトタイプ 本節では、カテゴリーを表す「系」の意味機能について見ていく。まず、「系」の基 本的用法を観察し、そして、新しいカテゴリー名を表わす用法を検討する。後者 では、どのように属性の意味が構築されるのか、プロトタイプ理論をもとに考察す る。 3.1 基本的用法 基本的用法において「系」は、複合体をなしたシステムの下位分類を表す。以下 はよく見られる例である。 (6) a. 文化系/理科系/社会学系の学生 b. 消化器系/呼吸器系/循環器系の病気 c. 日系アメリカ人/日系ブラジル人 d. ユダヤ系の作家 e. カトリック系の学校 (6a)は大学組織内の分野による分類、(6b)は体内組織の機能による分類、(6c)は 血統から見た出自による分類、(6d)は宗教的帰属による分類、(6e)は宗教的系統 による分類を表す。 いずれの場合も、「系」が表すカテゴリー属性が他のカテゴリー属性と区別が でき、なおかつ、そのようなカテゴリー化が上位カテゴリー(上の例では学生、病 気、人、作家、学校)を分類する上で意味をなすものとなっている。それに当たら ない場合、次のように、「系」の使用は不適切となる。 (7) a. ?脂肪系/?足系の病気 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 121 b. ?日系スロベニア人 c. ?アメリカ系の作家 (7a)では、カテゴリー区分の対象となる病気という医学的症状にとって、脂肪 や足といった要素は意味をなさないからである。また(7b)のように、血統による出 自の区分も、それによって新たなカテゴリーを設けるほどの充分な数に満たない 場合も、意味は理解できても語が一般に定着するのには難があるだろう。そして (7c)では、カテゴリーの対象となる文学という文脈において特に意味をもたない出 自であることから、カテゴリー化の必要性が見出せず、語の表層的な意味が理解 できるだけで、語の定着もカテゴリー名としての解釈も難しいと言える。以上の例 は、表層的な意味の理解には支障がないが、カテゴリー化の意味が見出せない ため、特殊な文脈がない限りは、聞き手は解釈にとまどうことも考えられる。また、 特殊な文脈というのは、汎用と対極にあるもので、語彙化に至らせるものとはなら ないだろう。 続く節では、新語に現れる「系」の意味機能について考察する。すなわち、新 しいカテゴリーの名付け、カテゴリー境界のあいまい化による再カテゴリー化、そ して、カテゴリーのプロトタイプ成員のプロファイルによる再カテゴリー化の3つの 機能である。 3.2 新しいカテゴリーの名付け 新語に見られる「系」の1つめの機能として、まず、従来にない新しいカテゴリーを 認め、それを名付けるというものがある。上述したようなカテゴリー化の動機にもと づいて、電子メディアなどでは日々新しいカテゴリー名が生まれている。 では、その際にどのような語が語基として選ばれているのだろうか。以下、例 を見てみよう。 NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 122 (8) a. 癒し系(の)グッズ b. アクア系(の)シューズ4/サンダル c. 路上系(ミュージシャン)5 d. 漂い系の若者6 これらの例では、カテゴリー属性は語基のメトニミー的解釈によって表されて いる。 (a)ではその心理的効果から属性を表わし、(b)では属性は対象となるシュ ーズが使われる場に共通のアクアという物質から属性を表し、(c)では対象のミュ ージシャンが活動をする場によって属性を表し、(d)では対象の生活スタイルがは たからどのように見えるかという様態によって属性を表している。さらに、(a)では 「癒す」という医療分野で使われる語が、気分が和むという意味に使われているが、 これはすでにレキシコンに登録されたメタファーである。(b)では「水」を「アクア」と いう外来語にしていることから特別な意味効果がもたされている。そのためか、 「系」を外した「アクアシューズ」という言い方も生まれた。(c)では路上系というカテ ゴリー名によって、それに分類される成員自体を表すという二重のメトニミーとし ての意味もある。すなわち、「路上系」というだけで「路上系ミュージシャン」を表す 用法である。そして(d)では、ライフスタイルを「漂う」という様態でメタファー的に表 していることから、メタファーとメトニミーの 2 段階からなる解釈プロセスを指摘する ことができる。 3.3 カテゴリーの外延のあいまい化 本節と次節では、再カテゴリー化に関わる「系」の機能を見ていく。前節では見た ような新しいカテゴリーを名づける場合と異なり、あるグループを指示する語とし てすでにあるものを語基に使い、それを「系」をともなうカテゴリー名として使うこと によって、当該グループ成員の外延を加減するという操作が行われるケースであ 4 「アクア系シューズ」は海辺などでも履けるようにできている靴のこと。 5 「路上系(ミュージシャン)」は街角や公園などで音楽活動をする人を指す。 6 吉水由美子著『「漂い系」の若者たち─インスピレーション消費をつかまえろ!』(2002 年)の書 名から。「漂い系」は、「ケータイで友達とつながり、コンビニを中継基地としながら、街を漂う若者」を 名付けた言い方。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 123 る。まず、本節では外延が拡張されるケースを見、次節では外延が特化される (あるいは縮小化する)ケースを見る。 外延の拡張をともなう再カテゴリー化は、カテゴリー境界のあいまい化によっ て引き起こされる。ここでは、「系」は「っぽい」や「のような」のように解釈される。例 を見てみよう。 (9) a. 体育会系の顔/髪型 b. お嬢様系の服/アクセサリー 上の例では、語基の表す属性をもたなくても、そのカテゴリー成員のようであ るというメタファー的解釈によって、カテゴリー成員として含まれるという手続きが なされている。したがって、このような用法では、カテゴリー化される対象は語基 が指示する属性を持っていてもいいが、その必要はない。(9a)の場合、体育会に 所属しない人物でも、体育会に所属している人に共通だと認識されている属性 (スポーツマンらしい外見、格好に頓着しない様子など)をもっていれば、体育会 系というカテゴリー名が適用される。ここではメタファーが対象の外見に対応して いることから、カテゴリー化の対象には「顔」や「髪型」などが当てはまる。また、 (9b)の場合、語基が表す意味の ICM では、この語は前時代の高い身分の女性 に当てはまるが、「お嬢様系」としたならば、「お嬢様」の外延はそうでないがそれ らしいという人にも拡張されることになる。それだけでなく、むしろ、実際の意味解 釈としては、「お嬢様っぽい」という意味と同等であるとも言える。(9b)のカテゴリー 属性は、女性的エレガンスという意味からロココ的な少女趣味という意味まで文 脈により解釈の幅がある。これらは「お嬢様」の ICM から導かれる解釈であり、実 際の身分の高い女性の属性とは必ずしも一致しないのは、ICM には実際のお嬢 様だけでなく、現実とは関係なく広くイメージとして共有されている属性も含まれ ているからである。 このような再カテゴリー化は、カテゴリー境界のあいまい化、あるいは、外延の 拡張と言うことができるが、それは、周辺的なカテゴリー成員のプロファイルに起 因するを考えられる。Rosch(1978)のプロトタイプ理論によると、カテゴリー成員は すべて同質ではなく、典型的だと言える中心的メンバーからそうでない周辺的メ ンバーまで連続的にあり、カテゴリーの境界も明確ではないという。「系」の機能 について見るならば、(9)の例は、カテゴリーの中心的成員から周辺的成員へとプ NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 124 ロファイルの対象が移ったことによる外延の変化であり、そのために、「~系」の意 味が(「っぽい」のような)メタファー的解釈に限りなく近くなったのではないかと考 えられる。 同様のケースではあるが、解釈がさらに限定されていると考えられる以下の 例を見てみよう。 (10) a. ロック系の音楽が好き。 b. 江藤さんはきれい系、伊藤さんはかわいい系だね。 これらの例では、カテゴリー名によって解釈される属性は、語基の ICM を基 盤とした中心的意味ではなく、周辺的な意味に転用されている。カテゴリーの周 辺的意味を含むというのではなく、むしろ周辺的成員あるいはカテゴリーの境界 に位置づけられるような低い程度の属性付与がなされるような対象がここでの中 心的成員であると言える。(10a)で解釈されるのは、ロックらしいロックからロックに 似ているものまでという包括的な指示ではなく、むしろロックっぽい音楽、すなわ ち、中心的な属性でなく周辺的な属性をこそもつ音楽が指示されているという解 釈が導かれるのである。(10b)については、「きれい」や「かわいい」という語の第一 義的意味である容姿ではなく、むしろこれらの語の ICM においては付随的な属 性が示されている。すなわち、「きれい」における「大人っぽい」「卒としている」な ど、「かわいい」における「子供っぽい」「守りたくなる感じ」といった、ある種の容姿 を与える印象というメトニミー的解釈による属性がカテゴリーの中心的意味となっ ているのである。 3.4 カテゴリーの外延の特化 最後に本節では、前節と対照的に、カテゴリー成員のなかでも中心的成員のプ ロファイルによる再カテゴリー化のケースを見る。ここでは、字義通りの意味解釈 では含まれるはずのカテゴリーの周辺的成員は背景化あるいは捨象され、中心 的成員のみが解釈される結果となる。 以下の例を見てみよう。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 125 (11) a. 独墺系の作曲家の作品 b. ロック系のコンサートに集まる若者 (11a)では、カテゴリー化の対象である作曲家という語との関連によって、「独 墺」の ICM のなかで活性化される属性が解釈を限定する形になっている。まず、 音楽の分野で「作曲家」や「作品」という語彙が最もよく使われるジャンルはクラシ ックだろう。そして、そのジャンルにおいて、ドイツやオーストリアの最も有名な作 曲家がプロトタイプをなすカテゴリーが構築される。出自がドイツまたはオーストリ アであってもその作曲家の作品がゲルマン的でないと見なされる作曲家はここで は周辺的あるいはカテゴリー外と見なされる。また、(12b)の場合は、前節と同じ 「ロック系」という語が使われているが、カテゴリー対象である「若者」と「ロック」双 方の ICM、かつ「集まる」という行為を結び付けて解釈することから、特定の若者 の様相の一部が解釈プロセスにおいて活性化され、「ロック」の一側面「騒がし い」「派手な」といった意味のみが特化された形でカテゴリー成員が解釈されるの である。 以上のように、特定の属性あるいは指示対象が前景化あるいは背景化される 要因となるのは、カテゴリー化の対象、談話の場、などが関わってくる。カテゴリー 成員のなかのどの成員がプロファイルされるのか、中心的成員か、周辺的成員か、 これらは、語基の表す属性の ICM とカテゴリー対象の ICM との関連によって、 カテゴリーの再構築が起こることを示している。別の見方をすれば、これがまだレ キシコンに登録されない新語だからこそもちうる解釈の幅であり、新語の意味解 釈に特有な点だろうと考えられる。 4 おわりに 以上では、「系」の意味機能についてカテゴリー構築の諸相を観察し、カテゴリー 化の動機および「系」の意味機能について考察した。ここでは3つの点にまとめて みたい。第一の点は、「系」が表現の短縮化を助けるという形態的レベルに関わ る。短縮された語は、その解釈において文脈に依存するところが大きい。文脈と いうのは言語的文脈および話者同士が共有すると見なしている一般知識、つまり ICM が含まれる。このような性質をもつ語は、話者にも相手にも、時間的にも心 NAKAJIMA Akiko: Naming Classifications: … 126 理的にも負担にならない簡潔な言い回しが好まれる電子メディアの文体に適して いると言える。話者同士に共通の知識を活用して文脈に依存した短縮語を使う のが効率的である。カテゴリー名を使う動機もそこに起因する。第二の点は、 「系」が後接する語基がメタファー的あるいは、メトニミー的またはその両方の段 階を踏んでカテゴリー属性を指示するという意味論的レベルの操作である。第三 の点は解釈レベルに関わる。すなわち、カテゴリーの中心的成員に特化し再カテ ゴリー化がなされる場合もあれば、周辺的成員に限定して再カテゴリー化がなさ れる場合もあるが、カテゴリー属性の解釈は、第1の点とつながるが、個々の ICM や文脈に依存した形で決定されるという点である。 「系」を使って新語を造る場合、文法的制約はほとんどないと言っていいが、 問題はむしろ解釈レベルで起こるかもしれない。しかし、文脈に依存する解釈で あっても、それが可能である場合に新語が伝播するのである。 以下は、「系」の意味機能のネットワーク的つながりを図示したものである。下 線は、本稿で考察した意味機能に該当するものである7。 基本用法 新しいカテゴリー構築 カテゴリーの再構築 周辺をプロファイル 中心をプロファイル 周辺的成員に特化 中心的成員に特化 図1 「系」の意味機能のネットワーク このように、基本用法に留まらず新語の生産に関わる「系」の意味機能は、上 で述べた、カテゴリー化と名付けの諸相によって、意味機能を拡張している。この ようなバリエーションが可能なのは、文脈に依存した意味解釈を前提とする短縮 語彙という新語だからこそであり、新語の特徴の1つであると思われる。 7 このほかにも意味拡張の可能性はあるが、今回取り上げられたものに限る。 Asian and African Studies XIII, 1 (2009), pp.113-128 127 参考文献 石井正彦 2007. 『現代日本語の複合語形成論』 ひつじ書房 影山太郎 1993. 『文法と語形成』 ひつじ書房 亀井 肇2003. 『若者言葉事典』 NHK出版 ケキゼ・タチアナ 2003. 「「ぽい」の意味分析」『日本語教育』 118. 27-36. 北原保雄(編著)2008.『KY式日本語 ローマ字略語がなぜ流行るのか』 大修館書店 Bosredon, Bernard. 1997. Les Titres de tableaux : Une pragmatique de l’identification. Paris: PUF. Kawakami, Seisaku. 1996. Metaphor and Metonymy in Japanese Nicknames. Poetica 46. 77-88. Lakoff, George. 1987. Women, Fire and Dangerous Things : What Categories Reveal about the Mind. Chicago, Londres: University of Chicago Press. Lakoff, George & Mark Johnson. 1980. Metaphors We Live By. Chicago, Londres: University of Chicago Press. Rosche, Eleanor. 1978. Principles of categorization. In Eleanor Rosche & Barbara L. Lloyd (ed.), Cognition and Categorization, 27-48. Hillsdale: Mich, Lawrence Erlbaum.